各種組立加工

株式会社浜野製作所  View Company Info

東京の下町発!スタートアップ企業の砦’’ガレージスミダ’’

オーストリア大使館主催によるレーザー加工コンテストで受賞するなど、高い技術を背景に、革新的な試みに取り組む企業が、東京の下町に存在する。板金やプレス加工を中心に、3Dプリンターなどのデジタル工作機を駆使する浜野製作所は、試作や開発を行いたい企業や研究機関のための総合支援施設’’ガレージスミダ’’を開設し、ベンチャー企業の熱い視線を集めている。本稿では、この施設を立ち上げた同社代表取締役・浜野慶一氏に、その技術的特性と、東京という地域性について話を伺った。

編集部:(以下、編)本日はご多忙のなか、お時間を割いていただきありがとうございます。早速ですが、多数のメディアに取り上げられている貴社の試みを拝見するなかで、強烈なインパクトを受けたのが、ガレージスミダの取り組みです。貴社の築き上げたネットワークを駆使して、企業や研究機関を有機的に繋げ、新たな製品やビジネスを世の中に出していくこの施設は、これまでの中小町工場のイメージを覆すものだと、驚きを覚えました。

まずは貴社がガレージスミダを立ち上げた経緯を伺う前に、これまで貴社が行われてきたものづくりについてお聞かせください。

浜野慶一氏:(以下、浜野)弊社は創業時の金属金型を出発点として、40年に渡ってプレス加工や板金などの金属加工業を営んでまいりました。さらに、時代の流れとともにレーザー加工機やマシニングセンタ、放電加工機などを導入し、現在では方式の違う2種類の3Dプリンターを始め、CNC加工機などのデジタル工作機も含めた、幅広い機材設備に特長があります。そのため、ご依頼をいただく業界も半導体関連から医療や航空宇宙、さらにはデザイナーズ商品といった多種多様なものになっております。

編:3Dプリンターも揃えている町工場というものは珍しいのではないでしょうか?

浜野:そうですね。3Dプリンターの登場は、多くの町工場に脅威を与えており、中小企業にとっては仇敵のような存在だといわれています。しかし、弊社では、この技術革新を危機だとは認識しておらず、素晴らしい技術であるのならば尚のこと、自分たち自身で使い倒してみせようと導入を決めました。実際に3Dプリンターによる製作経験を重ねてきたわけですが、加工工程や製品の使用状況によって適した技術が異なるため、3Dプリンターは全て解決する万能薬ではないという結論に達しました。弊社ではこの点を踏まえた上で、これまで培ってきた金属加工のノウハウと、これらの新技術をブレンドし、顧客の用途や状況に合わせたご提案を心掛けております。

編:新旧を織り交ぜた柔軟な対応を強みとされているのです。その特性を生かして、これまでどのような製品を手掛けてこられたのでしょうか?

浜野:多く町工場と同様に、弊社も量産品の加工を請け負ってきましたが、2000年に企業としての方向性を転換しました。それまでの量産の仕事だけではなく、試作品の製作や製品開発といった領域にバランスをシフトさせてきたのです。

なかでも注力しているのが、研究機関からいただく案件になります。例を挙げますと、世界各国の研究者も参加するハドロン宇宙国際研究センターに、南極で使用するニュートリノ観測装置を納品しております。この国際共同実験では、装置の設計を担当した千葉大学よりラフ図をいただき、設計や製造方法をご提案しながら、製品開発を行いました。その他でも、再生医療や農業を始めとした様々な研究機関や大学からも、ご依頼を承っております。

また、産学官連携事業では、電気自動車プロジェクト「HOKUSAI」や、世界で初めて8000mの深海で生物の撮影に成功した無人深海探査機「江戸っ子1号」の開発などに参画しました。さらに、書道家による「ひらがなピアス」の製作といった、個人によるデザイナーズ商品も手掛けております。量産品を主戦力としていた際には、取引先は4社ほどしかありませんでしたが、今では3000社を上回る企業から、ご依頼をいただいております。

編:僅か16年ですごい伸び率ですね!取引が広がるきっかけなどはあったのでしょうか?

浜野:契機をよく聞かれるのですが、製造業には一発逆転のような魔法はありません。当初は二人だけの工場でしたので、一気にお客さんに来ていただいたとしても、設備もなければ人手も足りず、依頼を受注することはできません。従業員を取り上げてみても、2人増えては1人減るといったように、少しつ人や機械を増やしていった蓄積が今に繋がっています。

ご存知の通り、昨今の製造業を取り巻く環境は大変厳しく、弊社のある墨田区では、最盛期に9800社ほどあった町工場も、今では2800社しかありません。この現状はどこの地域でも同様で、大手メーカーの製造拠点がコストの安い海外へと移るとともに、町工場は減少の一途を辿っています。

編:日本は土地代も高いですし、人件費も高いということは周知の事実です。

浜野:とくに東京は最も人件費が高く、工場の敷地自体が不足しています。さらに、工場の隣に生活圏があることから、騒音の問題をも抱えています。こういった状況を変えることは難しく、町工場の廃業が後を絶ちません。さらに、IT企業などとは異なり、製造の基盤企業は敷地や機械設備の購入、職人の確保が必要とされるため、一度消えてしまうと復活がしづらく、若い起業家の参入も見込めません。

確かに極一部の企業や地域では、職人の経験と勘による製造というものが行われておりますが、工作機械やソフトウェアの発達によって、日本と海外の差はぐっと縮まってきています。それゆえ、現地で使う車は現地の工場で組み立てるという時代の流れは今後も続き、ものづくりはどんどんと地産地消型へ移っていくことが予想されています。

これらの理由から、東京は最もものづくりに適さない地域だといえるので、他と同じようなことをしていては、早晩、立ち行かなくなることは明白です。今後、我々のような中小規模の町工場が生き残っていくためには、地域の特性を生かし、地に足の着いたものづくりをしていくことが生存競争を勝ち抜くための戦略となってくるのではないでしょうか。

編:「東京は最もものづくりに適さない地域」というご指摘は否定のできない事実ですが、東京におけるものづくりにメリットは存在するのでしょうか?

浜野:メリットを考えるには、まずその土地の特性をしっかりと捉える必要があります。確かに東京はコストの面や敷地といった観点から困難な状況にあります。しかし、その一方では、世界のなかでも類い稀な大学や研究機関の集積があり、先端の技術を研究する先生や研究員の方がたくさんいらっしゃいます。これまでは大手企業に追随する形で食べていくことができましたが、環境の変化に伴い、そういった図式は崩れてきています。以上を踏まえて、東京の特性を生かすには、大学や研究機関と繋がったものづくりをしていく。これが一つの新たな市場であり、東京でものづくりをする最大のメリットになるのではないでしょうか。

さらに、東京は人口集中の著しい地域です。人の集まるところには情報が集まり、情報の集まるところには必ずビジネスチャンスが生まれるものです。これこそが東京における最大の資源なのですから、その地の利を生かしたビジネスを展開することで、この地域でものづくりをする意味や意義といったものを見いだすことができるのではないでしょうか。

編:貴社はこれまでに数多くの研究機関のプロジェクトを手掛けてこられましたが、どのようにそれらの機関にアクセスしてこられたのでしょうか?

浜野:弊社は大学や研究開発をベースとしたスタートアップベンチャーとの繋がりが多いのですが、そのためにはそれなりの仕組みを作らなければなりません。その柱の一つが、2014年にスタートした、弊社のガレージスミダです。この施設は最新の3Dプリンターを始め、様々な工作機を取り揃えた超試作施設なのですが、これは弊社の製造のためだけに立ち上げたわけではありません。研究者や大学院生などが、「こういったハードを作りたい」「研究をビジネスに繋げたい」といった際に、ものづくりの加工という面から支援するための施設となります。例えば、すでにガレージスミダに入居している企業に、株式会社チャレナジーがあります。代表取締役の清水敦史氏は大手電機メーカーにお勤めでしたが、東日本大震災を契機に事故のない発電で日本の電力を賄いたいと退職。新しい風力発電のシステム開発に取り組んでいます。

編:台風を利用した世界初の風力発電を開発したとして、いま、最も注目を集めるベンチャーの一つですね。清水氏は大手メーカーに勤務時、ものづくりに関わられていたのでしょうか?(http://challenergy.com/)

浜野:清水氏は東大大学院で流体力学を研究していた経歴があり、研究開発に従事していたそうです。つまり、金属を加工するといったものづくりに関しては、専門家ではありません。当然、研究の成果を製品として具現化することは専門外ですから、試作の加工は弊社が請け負っております。

とくに、同社のようなスタートアップ企業は開発期間が長引いてしまうと、資金の回収が厳しくなります。さらに、加工経験の不足から、全てを3Dプリンターで作る傾向にありますが、前号で申し上げました通り、ものづくりには用途に合わせた加工が必要とされるため、必ずしも新技術が正解だとは限りません。また、最終的なアウトプットばかりに目が行き、ものづくりにおいて鍵となる、失敗した過程を記録していく図面管理の重要性を見落としがちです。「ものづくりは過程があって、結果がある」という基本をしっかりと抑えておきませんと、同じものを作ることはできませんし、品質を保証することも不可能です。さらに、図面管理を徹底することによって、納品後のアフターフォローや新製品開発に向けたノウハウを、蓄積させていくことができるのです。

弊社のような町工場はこれらの積み重ねで商売を成り立たせておりますが、スタートアップ企業の強みは、アカデミックな専門性にあります。ですから、ガレージスミダの入居企業には、構想の段階から加工は弊社にお任せいただき、彼らの専門性を充分に発揮してもらいたいと考えております。

編:つまり、お互いの強みを合わせて、協力体制を敷いていくのですね。

浜野:そうですね。ガレージスミダの発足以前も、弊社は大学のロボット製作の支援を行ってきましたが、先方の資金的な事情から、それはビジネスと呼べるようなものではありませんでした。弊社としましても、可能な限りお手伝いしたいところでしたが、お互いがwin-winの関係でないと、継続した活動を行えないということが問題点でした。

この問題を解決するため、弊社では、起業希望者を集めたビジネスコンテスト「テックグランプリ」の審査員を勤めさせていただいております。このコンテストには大手企業がスポンサーとしてついており、監査法人やベンチャーキャピタルも審査員として参加しているので、起業に至る経緯や資金計画を含めたビジネスプランが厳しく精査されます。受賞者には、賞金を含んで2000万円ほどの資金支援がおりますので、スタートアップ企業のネックとなる開業資金の問題をクリアすることができます。つまり、しっかりとしたプランを持ち、資金的問題のない企業を、継続的に支援することが可能になっております。先ほどのチャレナジーも、第一回テックグランプリで最優秀賞を受賞した縁から、ガレージスミダに入っていただくことになりました。

編:ガレージスミダには、現在、何社が参入しているのでしょうか?また、入居条件はとして、コンテストが必要とされるのでしょうか?

浜野:現在、5つのスタートアップ企業が、毎月の家賃とともに入居しておりますが、必ずしもコンテストが必要というわけではありません。しかし、全ての企業に共通しているのが、社会的な意義を持っているという点にあります。震災をきっかけに起業したチャレナジーもそうですが、「子どもたちに夢を与えたい」ですとか、「世の中の問題を解決したい」といった、社会のなかで役に立とうという大義があることが、弊社の審査基準となっています。

弊社としましても、図面を大量に撒いて一円でも安くしてほしいというような仕事よりも、志を秘めた若い起業家達が世界へと飛び出していくためのサポートをすることに、やりがいを感じているのです。

編:同施設は、入居企業からどのような評価を得ているのでしょうか?

浜野:ものづくりにおける加工の支援はもちろんですが、弊社の持つネットワークにも好評をいただいております。弊社には、年間一万人ほどの工場見学者がいるのですが、入居企業にとって、プラスとなる組織や人物の紹介を積極的に行っています。とくに、弊社はTVを始めとした様々なメディアに取り上げていただくことが多いので、可能な限り、入居企業も取り上げていただけるよう、取りはからっています。

さらに、地域に根ざした町工場としての人脈を使い、行政や金融機関に働きかけ、入居企業と地域双方の関係構築を押し進めています。その成果もあり、入居企業からは「ガレージスミダにいれば、浜野製作所がメディアや人を紹介してくれる」と伺っておりますので、彼らの情報発信や資金集めなどにおいても、サポートができていると自負しております。

また、技術的な側面からみましても、オープンな対応を心掛けています。「弊社よりも、この企業の方がためになる」と判断すれば、積極的に協力関係にある企業を紹介する態勢を整えております。

編:シリコンバレーにスタートアップ企業が集まるのは、技術だけでなく、ビジネスの人脈があるためだと聞き及びます。日本のベンチャーキャピタルは資金的な援助に偏る傾向にありますが、米国では、ハードが得意な企業とソフトを持ち味とする企業をアテンドしたりするなど、双方の特徴を生かした紹介を行うそうですね。

浜野:そうですね。シリコンバレーには非常に合理的な仕組みが出来上がっており、それが最大の魅力となっています。現在、弊社はものづくりの支援がメインとなっておりますが、将来的にはさらに踏み込んで、他企業や地域、行政、金融機関も巻き込んでいこうと考えております。そうすれば、日本にもスタートアップ企業が出やすくなる土壌を作ることができるのではないでしょうか。

編:ガレージスミダという先進的な取り組みは、貴社の企業価値を高めるための一つの戦略だと思うのですが、今後、浜野製作所はどのように変わっていくのでしょうか?

浜野:例えば、老舗とされる料亭などは、時代に合わせて常に商売のあり方を変えているものです。弊社も同様に、世の中がどう動いているのか、そして地域の特性とは何かということに注視しながら、培ってきた技術を社会に上手くマッチさせてきたいと思います。そうすれば、いつの時代でも必ずできることがあるはずです。

現在、日本の企業は次々と海外に打って出る時代です。弊社でも、帰国子女で語学が堪能な新卒者を雇用するなど、若い世代を中心にして、発信力のボトムアップに勤めております。さらに国内のみならず、海外のスタートアップ企業が日本でものづくりをできるような仕組みを構築していきたいと考えております。

編:ガレージスミダを介して、海を超えていくだけでなく、海外から日本に呼び込む方向性にも、挑戦されているのですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。

 

株式会社浜野製作所

創立:1978年9月
従業員:38名
業務内容:板金・架台・筐体設計 各種アッセンブリ加工 精密板金加工・レーザー加工 金属プレス金型製作 金属プレス加工 切削加工・機械加工 複合加工 開発・設計 試作製作
所在地:
・本社工場
〒131-0041
東京都墨田区八広4-39-7
TEL: 03-5631-9111
FAX: 03-5631-9112
 
・ガレージスミダ
〒131-0041
東京都墨田区八広4-36-21
TEL: 03-5631-9111
FAX: 03-5631-9112
Web:http://hamano-products.co.jp/