2次元汎用機による加工

他の企業とは違う方法で加工を行う三栄製作所の魅力の一つは、一品一様のカスタマイズ部品を短納期・高品質で送りだす技術力の高さだ。

量産態勢においては5軸加工機が活躍するが、単品・小ロットの製造現場では、工程のプログラミングに大きく時間を割かれしまい、スピーディーに作業を行うことができない。また、5軸加工機のように、一度に掴んだ状態で全ての面を削ってしまうと、加工歪みによるリスクが高まるとされる。
その点、同社のような2次元汎用機による加工では、一つ一つの面を考慮しながら工程を繋いでいくため、より高精度な部品を製造することが可能だ。

現在、同社の主な削材は金属・ステンレス・アルミなどだが、特殊な材料としては、熱変位が少なく高い強度を誇るYAGを用いたギアの製造を行っている。

一般的にギア材には合金鋼SNCMが選ばれるが、焼き入れを行うと硬度が上がる一方で引張り強度が下がり、脆さが発生してしまう。しかし、YAGは焼き入れによる強度低下を起こさず、ギアの耐久性を著しく高める。さらに、焼き入れや研磨の工程が短縮されるため、SNCMに比較して約2週間、納期を早くする事ができる。
YAGは特殊なだけでなく、固い素材で難削材の部類に入るが、長年に渡って加工してきた同社には、送り速度や刃物の変更などのノウハウが蓄積されており、顧客のニーズに合せた製造を行っている。

また、同社の技術の真骨頂は旋盤のヌスミ加工にも見て取れる。この加工は入り口の内径よりも内部が大きく削られており、鍾乳洞のような構造をしている。例えば、上下運動を繰り返すスロッターなどには必要な処置で、余分な干渉を逃がすための重要な加工だ。しかし、この職人技を手作業で行える技術者の数は年々減少しており、今では加工を行える工場は少ない。
価格を考慮しなければ放電加工で対処できるが、ヌスミ加工が可能な職人を抱える企業は貴重な存在となっている。

高い技術と豊富な経験をもつ同社は、顧客自身が完成された状態を想定できていない部品について相談されることも多い。マシニングセンタの量産品用クランプ治具を求めていたある企業も、最終的なイメージを持ってはいなかったが、簡略化された図を持ち込み、同社との試行錯誤の上、新たな治具を手に入れた。また、通常のマシニングセンタでは加工できない大型製品の場合、同社は部品を分割した製造方法を提案するという。
汎用機で加工を行うことにより、大型工作機の使用で膨らむマシンチャージを抑えた低コストの製品を提供できるという効果もあり、同社のフレキシビリティーは大きなアドバンテージとなっている。
柔軟性に富んだ対応力と提案力を駆使して、短納期で一つのイメージから製品を生み出す具現力には高い定評があり、顧客からは「三栄に任せていれば安心だ」という最大の賛辞が贈られている。

三栄製作所が掲げる精神「ものづくりはサービス業」

現在、納期の短いものや、難加工の製品を多く受注している同社だが、代表取締役の田中俊次氏は、対応力と提案力に、管理力をプラスした3つの力が重要だと考えている。
「当社が直接商談をさせて頂くのはメーカーの資材担当者ですが、彼らが最も困るのは不良と納期の遅れだといいます。価格に関しては担当者との相談で解決が可能ですが、納期と品質はその先の現場にも影響を与えてしまいます。こういった事態を避けるためにも、当社では『ものづくりはサービス業』という社訓を掲げ、絶えずコミュニケーションを取りながらお客様の余分なストレスを省き、信頼関係を築くように心掛けております。
また、納期の管理とは別に、コストを始めとする様々なご要望に合わせた製造方法を編み出し、お客様によりご満足いただけるものづくりを目指しています」
顧客からの「助かったよ」、その一言がなによりも嬉しいという同氏だが、今後はその技を世界に向けていきたいという。既に稼働しているベトナム支社の国内受注を拡大させる一方で、これまで培ってきたステンレス加工の技術を生かし、医療機器・食品製造分野で世界最大規模を誇る米国からの受注を目指している。